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  • 小さくなってから

    小さくなってから

    別れを切り出すのは、いつも僕のほうだった。

    そのとき僕は淡々としていた。付き合うというのは終わりがあるということで、終わるときが来たなら、そういうものだと思っていた。

    だから、受け入れられない相手が分からなかった。何度も同じことを聞いてくる。もう決まったことなのに、と思っていた。

    一度だけ、逆になった。

    理由は聞けなかった。ちゃんと始まってもいないうちに、終わった。

    納得できなかった。胸の片側だけが空いて、しばらくそのままだった。

    自分が小さくなっていくのが分かった。

    小さくなった場所から、前にいた人たちが見えた。

    何度も同じことを聞いてきたあの人は、答えが欲しかったのではない。答えを聞いても収まらなかっただけだ。僕がいま、同じところに何度も戻っているのと同じように。

    分かることと、受け入れることは別のことだった。分かっても、収まらないものは収まらない。

    あのとき僕が淡々としていられたのは、切り出す側だったからだ。それだけのことだった。

    僕は早く忘れなかった。忘れられなかった。

    だから、長く小さいままだった。そのぶん、長く見ていた。

    痛みは、痛いままにしておいたほうがいい。薄めていたら、何も見えなかった。

    恋愛相談をよく受ける。答えを持っているからではない。すぐには収まらないのが普通だと、知っているからだ。

    あの一度がなければ、知らなかった。

    最後に、ひとつ。

    ニーチェは『善悪の彼岸』の中で、深い苦しみは人を高貴にする、という趣旨のことを書いている。

    僕は高貴にはなっていない。小さくなっただけだ。

    ただ、小さくなってからのほうが、よく見えた。

    ある境を挟んで筆の向きが反対になっている絵